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Unicodeにある不思議な記号

    Unicodeの不思議な記号

    2023.3.15

    Unicodeの中にある特殊記号を紹介する企画の第2弾です。
    前回は我々にとって馴染のある記号を中心に見ていきましたが、今回はあまり知られていない不思議な記号を取り上げたいと思います。

    尚、各記号については特に断りがない限り、Apple Symbolsというフォントで表示しています。すべて画像に変換しているのでご了承下さい。

    錬金術

    身近にある卑金属から高価な貴金属、とくに金を作ろうという試みが錬金術です。ヨーロッパの中世から17世紀ぐらいにかけて盛んに行われていました。その錬金術で用いられた記号がUnicodeにも収録されています。

    下記は17世紀に書かれた表ですが、こんな感じで錬金術記号が使われています。

    Alchemical_table_Valentine_(1671)
    Basil Valentine's The Last Will and Testament, 1670(パブリック・ドメイン)

    この錬金術記号、今の時代に実用性があるかといえば、たぶん無いと思うんですが、Unicodeはどうやら歴史的な記号のアーカイブ的な役割もあるみたいなんですね。

    それから、錬金術記号には同じ物質でも複数のバリエーションがありました。水銀なら水銀で、いくつかのデザインがあったと。これから見ていく記号も、そのバリエーションの中のひとつであることに留意して下さい。

    錬金術記号1

    まず金属を表す記号から。このあたりの金属は同時に惑星の記号でもありました。金は太陽、錫は木星、水銀は水星です。錬金術は占星術とも密接な関係があって、それでこういうややこしいことになっています。

    錬金術が盛んだった時代は、物質そのものの性質よりも、物質に付与されたイメージが重視されたんですね。まあ、そのあたりが現代の化学とは違う点なのですが。

    錬金術記号2

    硫黄はともかくとして、生石灰や塩とかが材料になると、なんとなく理科の実験っぽい雰囲気が漂ってきます。

    錬金術記号3

    このあたりの材料になってくると、いかにも錬金術らしい魔術的な感じに。Unicode全体を見回しても、油や酢が記号になっているのは非常に珍しいんじゃないでしょうか。
    あと、尿の記号があまり尿っぽくないですね…。

    錬金術記号4

    錬金術で面白いのは、こういう工程や状態を表す記号があることです。現代でも、リサイクルのマークとか、検索の虫眼鏡のアイコンなど、アクションを表す記号がありますが、その先駆けという感じがします。

    Unicode内の錬金術記号ですが、2600〜26FFの「その他の記号」のブロックに点在しています。惑星記号と兼務しているものが主になります。
    それから1F700〜1F773が「錬金術記号」として、ひとつのブロックになっています。

    十字架

    キリスト教のシンボルと言えば、十字架をまず思い浮かべますが、これも様々な種類があります。

    十字架記号1

    我々にとって馴染み深いのは、この2つでしょう。ラテン十字(ローマ十字)は主に西方教会(カトリック、プロテスタントなど)、ギリシャ十字は主に東方教会(正教会など)という傾向はあるみたいですが、どちらの十字も両者で幅広く使われてきたようです。

    尚、この2つに関してはなぜかApple Symbolsで表示されないので、Menloというフォントを使っています。

    十字架記号2

    Unicode名では「Orthodox Cross」、つまり「正教会の十字架」となっているのですが、日本では「八端十字架」という名称でWikipediaに登録されています。
    ロシア正教会やウクライナ正教会などを始めとしたスラブ系の正教会でよく用いられる十字架です。

    ラテン十字の上下に横棒が追加された形。上の横棒はイエスの罪状を記した銘板、下の横棒はイエスの足を乗せた足台を表しています。正教会では、イエスの十字架には足台があったという伝承があるんですね。それを反映しています。

    十字架記号3

    アルファベットのXにも見えますが、Unicode名では紋章学の用語であるSaltire(斜め十字)という名称になっています。イエスの使徒のひとりである聖アンデレがX字型の十字架にかけられて磔刑になったので、「聖アンデレ十字」とも呼ばれます。
    ちなみにアンデレは英語読みするとアンドリューですね。

    スコットランドの国旗は青地に白い斜め十字の形になっていますが、これもスコットランドの守護聖人が聖アンデレであることに由来します。

    十字架記号4

    マルタ騎士団の紋章であるマルタ十字。11世紀の第1回十字軍に起源を持つ騎士修道会で、現在も存続しています。
    この騎士団は領土は持っていないのですが、諸外国との外交関係もあって、国連にもオブザーバーとして参加しています。2022年には日本人が新たに騎士に加わったことで、ニュースにもなりました。

    ちなみにマルタ十字は、高級時計メーカーの「ヴァシュロン・コンスタンタン」のエンブレムとしても有名です。

    植物
    フルール・ド・リス

    前から気になっていた意匠ですが、やっと名前が分かったという感じです。フルール・ド・リス(fleur-de-lis)はフランス語で、直訳すると「ユリの花」になるんですが、描かれているのはアヤメらしいです。

    ヨーロッパ中の紋章やエンブレムに使われていますが、特にフランス王家との繋がりが深いようです。
    結構色々なところで見かけますね。覚えておくと、[こんなところにも使われてる」と気付くと思います。

    フルーロン

    フルーロン(fleuron)というのは、書物などで用いられる、花や葉の形をした装飾記号ですね。記号と呼んでいいのか迷うところもありますが、昔のヨーロッパではこれが活字になっていて、改行とか区切りの部分に使われたり、デザイン上のあしらいとして施されたりしていました。日本では「花形装飾活字」という呼び方もあります。

    First page of The Triumph of Plutus ,1728(パブリック・ドメイン)
    First page of The Triumph of Plutus ,1728(パブリック・ドメイン)

    上図の場合はタイトル上にあしらわれていますが、使いどころも大きさも様々です。

    Macだと「Bodoni Ornaments」というフォントが標準搭載されていて、これが入力文字をフルーロンに変換してくれます。

    Bodoni Ornaments

    それから、装飾物の総称としての「オーナメント」(Ornament)という言葉を覚えておくと、海外サイトなどで装飾系のデザインを調べるときに何かと役に立つと思います。

    Unicodeの話から始まって、思わぬところに着地してしまいましたが、何かの参考になれば幸いです。
    最後に下記の本をご紹介。書体デザイナーとして有名なフルティガー氏ですが、世界中の記号やシンボルを取り上げていて、氏の博覧強記に圧倒される一冊です。

    『図説 サインとシンボル』
    著/アドリアン・フルティガー、監修/小泉均、訳/越朋彦

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